岡山マンション市況物語|第5話 人口が減るのに、なぜマンションは売れるのか?
2026.07.20
岡山で始まる「住み替え」の波
市場を動かしているのは、人口の数だけではありません。
人が「次の暮らし」を考え始めた瞬間に、住まいは動き始めます。
前回の第4話では、岡山のマンション市場で「選ばれるマンション」と「苦戦するマンション」の二極化が始まっていることをお伝えしました。
では、いったい誰が、どのような理由でマンションを選んでいるのでしょうか。
相場表や成約事例だけを見ていても、その答えは見えてきません。答えは、お客様がふと口にする「これからの暮らし」の中にあります。
探していたのは、広さではなく「10年後」
ある日の午後、50代後半のご夫婦が相談に来られました。
郊外の戸建てに二十年以上暮らし、子どもたちはすでに独立。住宅ローンもほぼ終わっています。
私は最初、希望の広さや予算をうかがいました。しかし、ご主人から返ってきたのは別の言葉でした。
「車に乗らなくなっても、困らない場所に住みたいんです」
庭の手入れ、外壁や屋根の修繕、二階への上り下り。今はまだできる。けれど、十年後も同じようにできるとは限りません。
奥様は、買い物や通院を車に頼り続ける暮らしにも不安を感じていました。
お二人が求めていたのは、豪華な共用施設でも、必要以上に広い部屋でもありません。
スーパーや病院に歩いて行けること。段差が少ないこと。留守のときも安心できること。そして、将来、どちらか一人になっても暮らしを続けられることでした。
つまり探していたのは「今いちばん広い家」ではなく、「十年後も無理なく暮らせる家」だったのです。
人口減少とマンション需要は、同じ方向には動かない
岡山市でも人口減少は始まっています。
だから、「これから住宅は余るのだから、マンションも売れなくなるのではないか」という質問をよく受けます。
しかし、人口が減ることと、すべての場所・すべての住まいの需要が同じように減ることは、まったく別の話です。
人の数が減っても、暮らす場所や世帯の形が変われば、需要は移動します。
岡山市の資料を見ると、市域人口が減少する一方、居住誘導区域内に住む人の割合は、平成22年の46.7%から令和6年には48.2%へ上昇しています。
市全体が一様に縮むのではなく、生活利便性の高いエリアへ、ゆるやかに人が集まりつつある姿が見えてきます。岡山市「立地適正化計画の評価・検証」
さらに、令和8年地価公示では、岡山市の住宅地は前年比1.9%、商業地は4.2%上昇しました。
もちろん、地価とマンション価格がそのまま同じ動きをするわけではありません。それでも、中心部や生活利便性の高いエリアに対する評価が弱まっていないことは、見逃せない変化です。岡山県「令和8年地価公示結果」
高くても動く人は、「価格」だけを見ていない
マンション価格が上がった今、「この価格では誰も買えない」と思われがちです。
それでも住み替えを進める方は、購入価格だけで判断しているわけではありません。
戸建ての売却代金を購入資金に充てる方。広さを少し抑えて、立地と安心を優先する方。毎日の移動時間や、建物を自分で維持する負担まで含めて考える方。
こうした方にとって、住み替えは単なる買い物ではなく、これまでの住まいの価値を、これからの暮らしへ移し替える行為です。
特に増えていると感じるのは、子育てを終えた世代の住み替え相談です。
一方で、学区や通勤時間を優先する子育て世帯、県外から岡山へ戻る将来を見据えた方、岡山駅周辺に生活拠点を持ちたい方もいます。
マンションを買う人を「若い一次取得者」だけで考えると、今の市場の実像を見誤ります。
選ばれているのは、「暮らしを小さくする家」ではない
戸建てからマンションへ移ることを「ダウンサイジング」と表現することがあります。
しかし、相談を受けていると、単純に暮らしを小さくしているわけではないと感じます。
部屋数は減っても、歩いて行ける場所は増える。
庭はなくなっても、外出の自由は増える。
専有面積は小さくなっても、将来への不安は軽くなる。
お客様が選んでいるのは、縮小ではなく「暮らしの再設計」です。
だからこそ、これからのマンション市場では、駅からの距離だけでなく、平坦な道で移動できるか、買い物や医療が身近にあるか、エレベーターやセキュリティが使いやすいか、管理費・修繕積立金を無理なく払い続けられるかといった、毎日の現実がより重く見られるようになります。
売る側にも、知ってほしいこと
ご所有のマンションを売却するとき、「この間取りなら子育て世帯が買うだろう」と決めつける必要はありません。
同じ3LDKでも、実際に探しているのは、郊外から街中へ移りたいご夫婦かもしれません。県外に住みながら、岡山の拠点を探す方かもしれません。
大切なのは、部屋の広さや築年数を並べるだけではなく、その住まいでどのような次の暮らしができるのかを伝えることです。
物件の価値は、過去にいくらで買ったかだけでなく、これから誰のどんな不安を解決できるかによっても変わります。
先ほどのご夫婦は、最後にこう話されました。
「今の家を手放すのは寂しい。でも、元気なうちに次を決めたい」
住み替えは、住み慣れた家との別れです。
同時に、その家を必要とする次の家族へ渡し、自分たちも次の暮らしへ進むことでもあります。
統計上は一件の売却と一件の購入にすぎません。しかし、その裏側では二つの家族の新しい生活が始まっています。
市場を動かすのは、「人数」ではなく「人生の変化」
岡山の人口が減るからといって、マンション需要が一律になくなるわけではありません。
子どもの独立、定年、親との距離、車の運転、健康、相続。人生の節目が来るたびに、住まいの役割は変わります。
これからの岡山マンション市場を見るうえで必要なのは、人口の総数だけではなく、「どこで、誰が、どのように暮らしたいのか」を見ることです。
価格表の数字の後ろには、必ず誰かの次の生活があります。
マンション市況とは、建物の値段の物語ではありません。
岡山で暮らす人たちが、これからの人生をどう選ぶか。その積み重ねが、市場をつくっているのです。
次回予告
第6話
「同じマンションなのに、なぜ売れる部屋と売れない部屋が生まれるのか?」
売り出し直後の「最初の30日」に何が起きているのか。価格設定、写真、見せ方、情報公開のタイミングから、成約までの分かれ道を追います。


