岡山マンション市況物語|第6話 同じマンションなのに、なぜ売れる部屋と売れない部屋が生まれるのか?
2026.07.27
売り出し後「最初の30日」にある分かれ道
売れる部屋と売れない部屋の差は、部屋そのものの差だけで生まれるわけではありません。
第5話では、人口が減少する中でも、子どもの独立や定年、車の運転、健康など、人生の変化によって住み替え需要が生まれていることをお伝えしました。
では、同じマンションを希望する買主がいるにもかかわらず、すぐに売れる部屋と、長期間売れ残る部屋が生まれるのはなぜでしょうか。
今回は、売り出し直後の「最初の30日」に起きていることを追います。
同じマンションで、二つの部屋が売りに出た
あるマンションで、ほぼ同じ時期に二つの3LDKが売りに出ました。
専有面積はほぼ同じ。階数にも大きな差はなく、室内の使用状態も極端には違いませんでした。
ここでは、先に売り出された部屋をA、もう一つをBとします。
売出価格はAの方がわずかに高く、価格だけを見れば、Bの方が先に売れても不思議ではありません。
ところが、売り出しから約30日後、購入申込みが入ったのはAでした。
Bには問い合わせはあるものの、二度目の内覧へ進むお客様がなかなか現れません。
Bの売主様から、当然の質問が出ました。
「うちの方が安いのに、なぜ先に売れなかったのでしょうか」
その答えは、価格だけでは説明できませんでした。
二つの部屋では、買主が最初に目にした情報と、検討を進めるための準備に大きな差があったのです。
Aの部屋は、売り出す前に準備が終わっていた
Aは、広告を掲載する前に室内の荷物を整理し、照明を確認し、日中の明るい時間に写真を撮影していました。
リビングだけでなく、各居室、収納、水回り、玄関、バルコニーからの眺望まで、生活の流れが分かる写真がそろっていました。
管理費・修繕積立金、駐車場、ペット飼育、リフォーム履歴、引渡し時期など、買主が次に知りたくなる情報も整理されていました。
内覧可能な日時もあらかじめ複数用意され、問い合わせが入れば、その日のうちに候補日を案内できる状態でした。
一方のBは、売却を急いで掲載したため、写真は外観とリビングが中心でした。
室内には生活用品が多く、収納の広さや各部屋の使い方が伝わりにくい状態です。管理関係の資料も一部確認中で、内覧できる日時も限られていました。
Bの部屋が悪かったわけではありません。
ただ、買主が「この部屋で暮らす自分」を想像し、次の判断へ進むための材料が足りなかったのです。
新着物件として見てもらえる時間は、一度しかない
マンションを探している方の多くは、不動産情報サイトの新着通知を設定したり、仲介会社に希望条件を伝えたりしています。
新しい物件が公開されると、すでに探している買主へ一斉に情報が届きます。
そのため、売り出し直後は、そのマンションやエリアを探していた人から最も注目を集めやすい時期です。
最初の週末に内覧が入り、その反応が次の内覧や申込みにつながっていきます。
しかし、情報が不足したまま公開すると、本来なら購入候補になったはずの方から「よく分からないので、いったん見送ろう」と判断されることがあります。
一度見送られた物件を、後からもう一度見てもらうことは簡単ではありません。
価格を下げれば再び注目されることはありますが、「以前から出ている部屋」「何か売れない理由があるのでは」という印象まで、完全に消せるとは限らないからです。
売り出し直後の新鮮さは、後から買い戻せない大切な資産なのです。
「まずは高く出してみる」が難しい理由
売主様から「急いでいないので、最初は高めに出して、反応がなければ下げたい」というご希望をいただくことがあります。
そのお気持ちは、よく分かります。大切な資産ですから、少しでも高く売りたいと考えるのは当然です。
ただし、買主は一つの部屋だけを見ているわけではありません。
同じマンションの別の部屋、近隣マンション、過去の成約事例、月々の住宅ローン負担を並べて比較しています。
相場より高いこと自体が問題なのではありません。
眺望、階数、広さ、室内状態など、価格が高い理由を買主が理解できるかどうかが重要です。
理由が伝わらない価格は、内覧後の交渉以前に、検索画面の段階で候補から外される可能性があります。
そして、数か月後に価格を下げても、売り出し当初に注目してくれた買主が、そのまま市場に残っているとは限りません。別の物件を購入していることもあるからです。
最初の価格設定は、単なる「希望金額の表示」ではありません。
どの買主に、どのタイミングで見てもらうかを決める販売戦略です。
写真は、部屋をきれいに見せるためだけのものではない
広告写真の役割は、実際より広く、豪華に見せることではありません。
買主が内覧前に抱く疑問を減らし、安心して見学を申し込める状態をつくることです。
リビングと隣の洋室がどのようにつながっているのか。収納にはどれほどの奥行きがあるのか。窓から何が見えるのか。水回りはどの程度使用されているのか。
写真の順番にも、暮らしを伝える役割があります。
また、写真だけが良くても、管理費や修繕積立金、駐車場の状況、管理規約上の制限などが分からなければ、買主は資金計画や生活設計を進められません。
価格、写真、物件情報、内覧対応。
この四つは別々の作業ではなく、買主が安心して決断するまでの一つの流れです。
最初の30日は、「必ず売り切る期限」ではない
もちろん、すべての物件が30日以内に成約するわけではありません。
高額帯の住戸や、特徴のある間取り、買主層が限られる物件では、検討に時間がかかります。
大切なのは、30日以内に売れたかどうかだけではなく、問い合わせ数、内覧数、内覧後の感想、他物件との比較理由を確認することです。
問い合わせが少ないのであれば、価格や広告の入口に原因があるかもしれません。
内覧は入るのに申込みへ進まないのであれば、室内状態や月額負担、引渡し条件が壁になっている可能性があります。
反応を分けて考えることで、必要のない値下げも防げます。
最初の30日は、安くしてでも売り切る期間ではありません。
市場から届く反応を最も正確に読み取り、次の手を決める期間なのです。
Bの部屋を、価格以外から見直した
Bの部屋は、すぐに価格を下げるのではなく、まず販売の準備をやり直しました。
室内を整理し、明るい時間帯に写真を撮り直し、各居室や収納、眺望が分かる情報へ更新しました。
管理関係の資料をそろえ、内覧可能な日時も増やしました。そのうえで、成約事例と競合物件を比較し、価格の根拠が説明できる状態に整えました。
情報を更新した後、以前広告を見たことがあるというお客様から、内覧の申込みが入りました。
その方が室内で口にした言葉が印象に残っています。
「前にも見ましたが、どんな部屋か分からなくて候補に入れていませんでした」
その後、条件を調整し、Bにも購入申込みが入りました。
部屋の価値が突然変わったわけではありません。買主に伝わる情報と、決断できる環境が整ったのです。
売れる部屋とは、「決めやすい部屋」である
同じマンションであっても、階数、方角、室内状態によって価格は異なります。
しかし、成約までの速さを分けるのは、それだけではありません。
買主が必要な情報を確認できること。
価格の理由を理解できること。
見たいときに内覧できること。
不安や質問に早く答えてもらえること。
そうした一つ一つが、購入の決断を後押しします。
売れる部屋は、必ずしも一番安い部屋ではありません。
買主が「この部屋なら決められる」と思える状態まで準備された部屋です。
マンションの売却は、広告を掲載した日から始まるのではありません。
価格を考え、資料をそろえ、写真を撮り、内覧の準備をする。その時点から、すでに成約までの分かれ道は始まっているのです。
次回予告
第7話
「リフォームしてから売るべきか? そのまま売るべきか?」
売却前の全面リフォーム、部分補修、ハウスクリーニング、ホームステージング。かけた費用は売却価格で回収できるのか。物件ごとの正しい判断基準を考えます。


