岡山マンション市況物語|第7話 リフォームしてから売るべきか? そのまま売るべきか?
2026.08.03
リフォームしてから売るべきか?
そのまま売るべきか?
かけた費用が、そのまま売却価格に上乗せされるとは限らない
売却前のリフォームは、
『きれいにすれば高く売れる』だけでは判断できません。
第6話では、売り出し直後の『最初の30日』に、価格、写真、物件情報、内覧対応を整えることの大切さをお伝えしました。では、その準備の中に『リフォーム』はどこまで必要なのでしょうか。今回は、売却前に手を入れるべき部屋と、そのまま売り出した方がよい部屋の違いを考えます。
『古いままでは売れない』という不安
築年数が経ったマンションの売却相談では、室内を見回しながら、売主様が心配そうにおっしゃることがあります。
「この状態では印象が悪いですよね。先に全部きれいにした方がいいでしょうか」
クロスの汚れ、床の傷、古くなったキッチンや浴室。長く暮らした住まいほど、気になる箇所は増えていきます。きれいな部屋の方が買主に好まれるのは確かです。しかし、売却前に数百万円をかけて全面リフォームすれば、その費用をそのまま売却価格へ上乗せできるとは限りません。
なぜなら、売主が『良い』と思う内装と、買主が選びたい内装が同じとは限らないからです。新しくした設備が買主の好みに合わなければ、費用をかけたにもかかわらず、『自分で選び直したい』と思われることもあります。
同じ築年数、異なる二つの売り方
あるマンションで、築年数も広さも近い二つの住戸の売却相談がありました。Cの部屋は、設備に故障はありませんでしたが、内装には使用感がありました。売主様は全面リフォームを検討していました。
一方、Dの部屋は空室で、クロスの一部に汚れがあり、照明が切れ、室内には処分予定の家具が残っていました。ただし、水回りは丁寧に使われ、床にも大きな損傷はありませんでした。
Cはリフォームをせず、室内の状態と想定される改装費用を整理して売り出しました。Dは残置物を撤去し、照明を整え、ハウスクリーニングと傷んだクロスの部分補修だけを行いました。二つの部屋で選んだ方法は違いましたが、どちらも『何もしない』か『全部直す』かの二択ではありませんでした。
全面リフォームが向いている場合
全面リフォームが有効なのは、工事後の部屋を求める買主が明確で、完成後の価格に十分な根拠がある場合です。たとえば、購入後すぐに入居したい共働き世帯が多いエリアで、同じマンションの改装済み住戸が実際に高く成約している場合は、選択肢になります。
ただし、工事費だけでなく、完成までの期間、管理組合への申請、工事中の管理費・修繕積立金、売却が長引いた場合の負担も考える必要があります。仮に工事費が300万円でも、売却価格が300万円以上高くなるとは限りません。重要なのは、工事後にいくらで売れそうかではなく、工事をしない場合と比べて、最終的に手元へ残る金額が増えるかどうかです。
部分補修とクリーニングが効く部屋
設備がまだ使え、室内に致命的な傷みがない場合は、全面リフォームよりも、買主の不安を減らすための部分補修が効果的です。切れた照明、破れた障子、目立つクロスの汚れ、建具の不具合、水回りの清掃不足。少額で改善できる箇所が放置されていると、買主は実際の補修費以上に『この部屋は全体的に手がかかりそうだ』と感じます。
ハウスクリーニングも、単にきれいに見せるためだけではありません。換気扇や浴室、洗面台、窓まわりが整っていると、買主は設備の状態を確認しやすくなります。空室では、カーテンを開け、照明を点け、室内のにおいや湿気を確認しておくことも大切です。
部分補修の目的は、新築のように見せることではありません。買主が『購入後に何を直せばよいか』を冷静に判断できる状態にすることです。
そのまま売る方がよい部屋もある
一方で、設備や内装の更新時期が重なり、買主が自分好みに全面改装する可能性が高い部屋では、売主側で手を入れない方がよいことがあります。特に、間取り変更を含むリノベーション需要がある物件では、完成された内装より、購入価格を抑えて自由に工事できることが魅力になります。
この場合に大切なのは、古さを隠すことではありません。故障箇所や不具合を整理し、改装事例や概算費用を示し、購入後の総予算をイメージできるようにします。『現況のままなので安い』だけではなく、『購入価格と改装費を合わせると、どのような住まいが実現できるか』まで伝えることで、古さが選択肢へ変わります。
ホームステージングは、暮らしの大きさを伝える
家具や小物を配置するホームステージングも、すべての部屋に必要なわけではありません。ただ、空室で広さが伝わりにくいリビングや、家具配置に迷う間取りでは効果があります。
目的は豪華に飾ることではなく、ソファやダイニングテーブルを置いたときの余白、隣接する部屋とのつながり、生活動線を分かりやすくすることです。写真映えだけを優先して大きすぎる家具を置くと、実際の内覧で狭く感じられることもあります。物件に合った量と大きさを選ぶ必要があります。
判断の基準は『費用を回収できるか』だけではない
売却前に手を入れるかどうかは、①現在の室内状態、②同じマンションの競合物件、③想定する買主、④工事費と工期、⑤売主様の資金と売却期限を合わせて判断します。
たとえば、相続した空室で遠方に住んでいる場合は、工事の打合せや確認そのものが負担になります。住み替え先の購入期限が決まっている場合は、工事に時間をかけるより、早く市場へ出す方がよいこともあります。反対に、すぐに入居できる部屋が少ない時期には、最低限の補修をして競合との差をつくることが有効です。
つまり、正解は部屋だけで決まりません。売主様の事情と、市場にいる買主の希望が重なる方法を選ぶことが大切です。
CとD、それぞれの結果
Cの部屋には、自分たちで間取りから考えたいというご夫婦が内覧に訪れました。現況の写真と不具合、改装費の目安を事前に確認していたため、内覧では日当たりや眺望、管理状態など、変えることのできない部分を中心に検討されました。その後、リフォーム費用を含めた資金計画をつくり、購入申込みへ進みました。
Dの部屋では、クリーニングと部分補修によって明るさと清潔感が伝わりやすくなりました。大がかりな工事費はかけず、すぐに住み始めたい買主から評価され、売り出し後の早い段階で申込みが入りました。
二つの結果が示しているのは、リフォームをした方が売れる、しない方が得だ、という単純な答えではありません。それぞれの部屋に合った準備を選び、その理由を買主へ伝えられたことが、成約につながったのです。
売るための工事ではなく、決めやすくするための準備
売却前のリフォームで最も避けたいのは、不安のまま工事を始めることです。まず相場と競合を確認し、現況で売る場合、部分補修をする場合、全面リフォームをする場合の三つを比べます。
売却価格だけでなく、工事費、販売期間、保有中の費用、手間まで含めて考えると、選ぶべき方法が見えてきます。工事をしないという判断も、何もしないこととは違います。状態を正確に伝え、買主が改装後を想像できる資料を用意することも、立派な販売準備です。
大切なのは、部屋を新しくすることではありません。買主が必要な費用と暮らしを具体的に想像し、『この条件なら決められる』と思える状態をつくることなのです。
次回予告
第8話「査定価格は、なぜ会社によって違うのか?」
高い査定価格を出した会社へ任せれば、本当に高く売れるのでしょうか。査定価格、売出価格、成約価格の違いと、査定書で確認したいポイントを考えます。


